日本死ね?もう死んでます!保育園入園選考の12の不公平

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「保活」とか「日本死ね」とか。保育園入園選考で悲喜こもごもの声が聞かれます。
しかし、「保活」という言葉が存在していること自体に違和感を感じます。

保育園に子どもを入れるためのテクニック論が横行している背景には、問題の本質に目を向けず、ただただ現状の条件に適応ればよいという悪い行動パターンがあるように思います。保育園になぜ入れないのかという問題は解決せずに、自分の子どもだけは保育園に入れるとか、これをビジネスチャンスにというよくない風潮の現れです。

「保活」という言葉がある以上は、常に誰かが保育園に落ちて「日本死ね!」と泣いているのです。

そもそも児童福祉法の第二十四条では「市町村は、保護者の労働又は疾病その他の事由により、その監護すべき乳児、幼児その他の児童について保育を必要とする場合において、当該児童を保育所において保育しなければならない。」という大前提があります。
これは、保育所いわゆる保育園は単なる入れる人と入れない人がいる行政サービスではなく、保育園は必要とする人が必ず利用できなければならないという行政の義務なのです。法律で行政は保育園の設置と入所を義務づけられています。

つまりは、「日本死ね」云々ではなく、行政が法律違反を犯しています。

では、なぜこのような現状が続き、みんなが保活に走らされているのか。誰が悪いのか、誰がその被害を受けているのか。どうすればよいのか。

保育園10の不公平をまとめました。

1、情報格差をあえて利用する人々

実はここまで、保育園不足や過酷な保育園の状況が存在しているのに、保育園の待機児童数はどのようにカウントされているか入所選考はどのように行われているかという情報は社会で全く共有化されていません。一昨年は、横浜市の「待機児童ゼロ」報道にNHKをはじめ多くのマスコミが踊らされました。
区市町村によって、待機児童数の定義が違うことや、入所選考のポイントが違うことはあまり知られていません。
東京新聞が再調査した記事で大手マスコミが赤っ恥をかいたことは記憶に新しいところです。

こうした情報格差をあえて利用している人々がいます。

それは・・・。

<保育漂流>待機児童数編 まやかしの「ゼロ」 当て外れ戸惑う親

名古屋市は四月時点で「待機児童ゼロ」。そう聞くたびに不思議に思う。「うちの子は入れなかったのに…」
名古屋市と同じく、四月時点で待機児童がゼロだった川崎市。中原区の会社員女性(29)は、年初に市から「利用調整結果通知書(保留)」という書類を受け取った。最初、何が書いてあるのかよく分からなかったが、読み進めていくと「保留理由 定員のた
め」とあり、一歳の息子が入園できないことを知った。
区役所の担当者に話を聞くと、六人の枠に対して四十人の申し込みがあり、自分の待機順位は三十番台だった。入園は無理と判断し、育休を延長。ようやく九月から認可外保育園に通わせて復帰できたが、夫(37)は「保育園に入りたいのに入れないのは待機
児童じゃないのか」と怒っている。

出典:東京新聞

「マスコミ死ね」ですね。

2、議員の口利きが横行

なぜここまで情報格差があるかといえば、完全に情報が共有されれば議員や行政のうま味が減るからです。
地方議会議員に対する陳情の件数のベスト3が、保育園の入所、特養の入所、公営住宅の入所です。これらは共通する問題がありますが、区市町村議員の場合は大きな公共事業案件がない代わりに、個々人の利益に直結する陳情を受けて、そこから広がる後援者や献金が大きな力の源泉になっています。
これは政党を問わず、ほぼすべての議員が保育園の陳情を受けています。
自治体によって程度は違いますが、すべての自治体で「議員に頼めば入園できるかできないかの情報が発表前に判明する」程度のことは行われています。また、点数の水増しまではいかずとも「同点の時には議員の紹介を優先する」ということが実際に行われている自治体は多数あります。実は、ほとんどの自治体の入所選考基準では、「未認可利用中、夫婦共働きで、生活保護でない」という世帯が同点で並ぶため、議員の紹介は重大な決め手になります。中には、それ以上の議員・職員の縁故者に便宜を図っている自治体もあります。

■保育園の第一志望受かったけどやっぱり日本死ね

◆出産後

・出産したら、再び市役所の担当職員に子どもを連れて詣でる。うちは退院の足でそのまま夫婦で市役所に行き、「○○さんに子どもを見せに来ましたー」と生後7日の娘を見せて、娘の名前を相手の記憶に擦り込ませた。

出典:http://anond.hatelabo.jp/20160218153103

この記述の真偽が議論を呼びましたが、区市町村によっての違いはあります。担当職員ではなく議員に行った方がいいのではという意見もありました。都心部の区ではまだまだこのようなコネが強い力を持つ傾向にあるようです。まさに激戦区の郊外の自治体ほど情報公開が進み、口利きや縁故入所も排除される傾向にあります。

なかには進んで保活講座や入園申し込み書の書き方指導をする議員もいますが、こうした議員は問題の解決を望んでおらず、たんなる現状の擁護者で抜本的な改革を行政に要望することをしないか、行政にコントロールされている議員である場合がほとんどです。

「日本死ね」の前に「議員死ね」の方が正しいです。

3、保育を食い物にするNPO

保育園の経営にNPOや株式会社が参画したり、入所という形式以外の様々な保育サービスが導入されています。また従来の保育園・幼稚園ではなく、認定子ども園法も制定をされ、さまざまなニーズにあう保育サービスが整いつつあるように見えます。実はここにも落とし穴があります。
こうした新しい保育の担い手になっているNPOや民間事業者が、保育園の増設に異議を唱えて、「増設の前に多様化」のようなことをのたまわっている状況もあります。社会起業家として立ちふるまっている保育サービスの企業経営英社が先日の「日本死ね」の記事に対して、反論したのもポジショントークでしかありません。民間にとっては、保育園不足が続いた方がビジネスチャンスがあるのです。
確かに、保育行政や保育サービスは必要ですが、利用者である保護者が様々なサービスメニューから選択できることが理想でしょう。しかし、今は一方の保護者は自由に選択でき、他方の保護者は地獄という状況です。圧倒的に「保育所」が足りていないのです。

4、入園した人は安い利用料、入園できない人は高い未認可

民間活力の導入の掛け声で保育サービスが多様化した結果、起きていることは何かといえば、待機児童を認可保育所以外で吸収しようとする政策です。一見、これは理にかなったことのように思えますが、正規の認可保育園に入れた人は自治体基準の定額の保育料で充実したサービスを受けることができ、入れなかった人はサービスレベルがまちまちで料金も高額の未認可保育施設やベビーシッター・預かりサービスを利用せざるを得ないという状況を生んでいます。
入園選考に当たれば天国、外れれば地獄。この差が大きくなっているのです。
もちろん、こうした民間サービスへの助成を導入する自治体も増えていますが、根本的には解決が難しいでしょう。
また保育園入所激選区の自治体で言われていることは、入園選考の点数をアップさせて認可保育園に入るために、月10万円前後の未認可施設に一旦預けるということです。こうした経済的弱者には過酷なことが、当たり前のように行われています。

5、これから仕事をするために入園できない

保活ができている人はまだ勝ち組などという人もいます。
たとえば、月10万円の未認可施設に預けることが認可保育園に入れるためのステップになっていれば、これに見合う収入の世帯は間違いなく入園できません。公立保育園に入れてお金をかけないための「保活」も、非常にお金のかかる活動なのです。
また、子育てにお金がかかり父親も母親も働かなければならないという事情や、一度退職してしまって保育園に預けて働こうという場合に、ほとんどの区市町村の入所基準が適合しておらず、保育園入所が正社員の特権のようになってしまっている現実もあります。就労証明書や源泉徴収票を発行するアリバイ会社があるほどです。
特に、夜の仕事をしている母親には、過酷な差別があります。夜働く人には全く対応できていないのが、認可保育園です。執拗に勤務先を調査されたり、入園前後に差別的な言動を受けたりすることもあります。
夜の仕事をしている母親専門の保育サービスや預かりサービスがありますが、報道でもたびたび取り上げられるように重大な事件も起きています。保活のしわ寄せはこうしたところにも来ています。

6、生活保護なら100%入園

議員の口利きでも「未認可利用中、夫婦共働きで、生活保護でない」という世帯が同点にずらっと並ぶと書きましたが、生活保護ならばほぼ100%入園できます。
しかし、これは生活保護に近い状態ではダメで、生活保護の申請をしなければならないというハードルがあります。
給食費や学用品の費用を賄う就学援助ならば、生活保護の生活扶助の申請をしなくても、生活保護の状態にあるということで同じ金額が支給されます。教育扶助の単給と呼ばれます。保育園入園に関してはこうした制度はありません。
実際には、最低賃金すれすれの給料で働いているワーキングプアと呼ばれるような世帯はこれに該当しているのですが、全く救済が受けられません。
生活保護の申請には、複雑な手続きや財産の処分、数々の行為の制限があるうえに、社会的にも「ナマポ」と呼ばれるような差別的な風潮が横行しているためためらう人が多いのです。

7、フリーランス・自営業の有利・不利

この他にも、自営業者をどのように取り扱っているかでも、区市町村によって大きな違いがあります。
自宅で働くようなフリーランス・自営業者が会社勤めのサラリーマンなどよりも基準点数が変わらない場合もあれば、有利・不利がある場合もあります。
これについては、政治力の強い自営業者を優先しようとする傾向がありますが、一概にはどちらが点数を高くすべきかは分かりません。
このような不要な対立を生んでいるのも「保活」です。

8、生まれ月によって差がある

保育園に入りやすい生まれ月があるという話を聞いたことがありますか、これは地域に寄りますが、0歳児が入園しやすい地域、1歳児が入園しやすい地域があります。
保育園の入園選考が4月にのみ行われているため、このようなことが起こっています。
例えば、0歳児が入園しやすいという場合は、4月になるべく近い早い月に生んだ方がよいでしょうし、1歳児が入園しやすいという場合は3月に近い遅い月に生んだ方が有利と言われています。
また、まだ家庭で子育てをしたいが、時間が経って年齢が上がると入園できなくなるので早く入園させるという経験も聞かれます。
こんな行政の都合で、人間の生命の誕生という尊い出来事が左右されなければならないなんて、先進国なのでしょうか。

9、居住年数の有利不利

居住年数の有利・不利もあります。サラリーマンなど勤めの仕事の都合で転勤したり、住宅事情に合わせざるを得ない人々にとっては居住年数が短い世帯が不利になれば不公平感がぬぐえません。また、一方で行政が保育施設や保育サービスを充実させれば、子育て世帯の転入が相次いで長年その自治体に住んでいるのに保育園の入所がかえって難しくなる場合もあります。
また、情報格差があり、保育園入所の基準や定義が区市町村ごとにあいまいなため、保育園選考をめぐっての情報の錯綜、混乱はインターネット上ではよく見られるところです。

10、同じ行政区内での保育園の偏在

待機児童問題が言われる中でも同じ区市町村内ですべての地域を見れば、定員割れしている地区、保育園はは必ずあります。しかし、歓楽街や商業密集地域で近くに適切な住居がなかったりするのです。
行政がもっと機動的に保育所を増やすように働きかけるべきなのですが、保育園の制度としても財政措置の面から見ても、民間施設を借り上げたりするような柔軟な対応はできていません。
最も必要とされる住宅街に保育園を作ろうとすれば、周辺住民が反対するという事例も各地で起きています。
子どもの声が騒音か、そうでないかという論争も起きています。

11、0歳児の保育コストは月50万円

さまざまな施設基準があり、0歳児を預かるために保育園がかけているコストは合計すると平均して児童1人月50万円かかるという試算もあります。
平均して保育料が月2、3万円だったとしても、公立の認可保育園に入れた場合は、税金で50万円近い支援がなされているということになります。
こうした数字上の議論だけを取り上げて、0歳児は家庭で育てるべきということを言う人もいますが、これも不公平の一つです。
目先の金額に気を取られて、女性の活躍の機会を減らし、その結果、それ以上の経済的損失を生んでいるのです。
女性が働くか、子育てをするか、選択できる社会が望ましいと言えます。

12、低賃金・長時間労働、保育士の過酷な職場

ハローワークなどの求人情報でも、保育士の賃金は低く抑えられていることが分かります。
これだけ保育園が不足しているにも関わらず、低賃金・長時間労働、保育士の過酷な職場が存在しています。「賃金は上がらない」という有名な起業家の発言でも話題になりました。
同時に、社会の中には、保育士は誰にでもできると思われているきらいもあります。それならば、規制や認可要件をすべて完全に自由化してみれば、どうなるか安易に想像ができます。公立園を撤廃し、料金を自由化し完全に自由な競争の中で保育士の給料が低いのなら考えようはあるでしょう。
規制や認可要件の見直しは必要でしょうが、この現状で今の保育士がその制度のひずみの犠牲者になっているのです。本来、利用者や行政が負担すべき費用が、今の保育自体が保育士の低賃金によって支えられているという見方もできます。

以上です。他にもたくさんありますが、「日本死ね」と言っているだけでは、次の世代の親も子どもも着実に死にます。まずはこうした「保活」という言葉がなくなるように社会を変えなければなりません。庶民の味方という顔をして保育園選考につけ込む議員や子どもは家庭で母親が育てるものなどという旧態依然の考えを持つ議員を一掃して、みんなが安心して働ける社会を作りましょう。

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