小学生、中学生、高校生向けの読書感想文の文例を紹介します。
「ヤバい現場に取材に行ってきた!」を読んで
高校生
ここのところ本を読む機会がめっきりと減ってしまいました。読みたいと思えるものがなくなってしまったというのもありますし、単純に本よりもネット上にとっ散らかっている駄文の方が面白いというケースも稀にあるので尚のことです。しかし稀も稀、所詮は無価値が繁茂するインターネットのことです。本に叶うわけがないのです。一際目を惹く秀逸な記事など滅多にお目に掛かれるものではありません。そういうことで何か「ヤバい」ものはないかと探してみると早速ありました、ヤバい本、その名も「ヤバい現場に取材に行ってきた!/著者・石原行雄」
この手のタイトルの読み物は、まず間違いなく引くほどヤバいに決まっています。そんな確信にも似た期待感と、ただ『ヤバい』というタイトルに惹かれるという、いつにも増してプリミティブな発想で購入を決意しました。いざページをめくり読み始めてみると著者のユーモラスな語り口に反して、実際に綴られていたのは「予想は裏切り期待は裏切らない」というほどのディープな現場のオンパレードでした。戦時下のイラク、アジアの危険地帯、抗議集会、婚活パーティー会場、ヨットスクール、北朝鮮とどれも満遍なくコアな世界ですが、違法な現場、立ち入り禁止区域、不可解な現場とノンジャンルでバラエティーに富んでいるのでつい釘付けになってしまいます。何よりも著者独自の嗅覚のみを頼りに現場から現場を渡り歩き、極限まで掘り下げていく気概がとにかく物凄いです。世界はヤバい。東京はヤバい。知らない方が幸せだった。そんな短い言葉や感想しか出てこない「ヤバい」の結晶・集大成的な一冊でした。
特に印象に残っている話が二章あります。まず、本書は全十七章でそれぞれ全く違うエピソードで構成されているのですが、五章に「ゴミ屋敷」という話が出てきます。これは、文字通りゴミ屋敷に住んでいる二十二歳の女性の話なのですが、この話を読んだ時私は衝撃を受けました。本人は劣悪な家庭環境で育ったようですが最終的に落ちぶれると人はこうなってしまうのだな、と、他人事ながら全く笑うことができませんでした。
それからもう一つは第十三章の「豚の解体現場」というエピソードでした。著者の石原行雄さんはプロのライターとしてペン一本だけで日本のみならず、チベット、ミャンマー、アフガニスタン、スマトラ島など世界四十ヶ国以上を日々飛び回っています。そんな石原さんですが、実はテレビ出演の経験があります。サバイバーという番組をご存知でしょうか。石原さんが参加したのは無人島にて極限状態に追い込まれた男女十六人が参加し、最終的に残った一人が賞金の一千万円を獲得することができるという2002年から数年間地上波でオンエアされたこのサバイバーという番組です。フィリピンのシキホール島に取り残された石原さん達の食事は一日に一食か二食。しかも、小麦粉の団子を海水で煮ただけのスイトンもどきが茶碗に一杯だけ。当然それだけでは耐えることができません。ある日、石原さん以外の一人が豚を捕獲します。そして豚を調理するために解体するわけですがこの時の描写ひとつひとつが非常に生々しく、読んでいるだけで激しい吐き気に見舞われました。一連の工程の中で心臓や腸を豚の体内から引っ張り出す光景は実際に経験したものにしか分からない気色悪さがあるかもしれませんが、無人島で生き抜いていくためにはやむを得なかったはずです。
本書は冒頭からイラクの爆弾テロ現場の凄惨なエピソードで幕を開けますが、他にも生々しい話のオンパレードです。今まで知らなかった刺激的な世界を覗いてみたいという方には是非ともオススメの1冊ですが、本書を読んで尚も上記のデンジャラスな現場に自ら足を踏み入れたくなる衝動に駆られた日には、その日以降は全て凶日です。世界と日本のヤバい無法地帯の凝縮、ここに極まれり。(1,581文字)