この作品を読むにあたって夏目漱石について調べたのですが、漱石はイギリス留学時代に精神病をわずらい、その後も苦しみ続けたそうです。現代の私たちの日本社会でもうつ病や発達障害など精神の問題は増え続け、とどまることを知りません。漱石の生きた百年前の世界でも、きっと同じように苦しんでいた人は相当数いたのではないかと思います。ですが、当時は今ほど医学も発展していませんから、治療の方法は限られますし、下手をすれば治療をするという認識すらなく、患者は放置されたりどこかに閉じ込められたりして酷い扱いを受けていたことでしょう。現代は精神医学も発達し、精神病に対する治療法や知識も大分普及してきています。ですが、その一方でスマホ依存やSNS依存、それらを介したイジメや犯罪など漱石の時代には予想だにされなかったような問題が次々と生まれてきています。科学の発達は人間の生活を豊かにする一方で、精神的豊かさや他人を思いやる心のゆとりを奪ってしまっています。一方が豊かになる反面、違う面がどんどんをやせ細っていってしまう。実に皮肉です。では、それに対して私たちはどうしていったら良いのでしょうか?スマホやSNSを捨て去るというのは難しいです。ですが、できることはあります。画面越しではなく直に友人と触れ合う時、私はとても充実感にあふれ、喜びを感じます。この直に触れる喜びを真剣に感じ取り、大事にする。そしてその喜びを与えてくれる人たちとの関係を大切にし、他人も自分も尊重する。そうした行動が、やがて自分の幸せにも他人の幸せにもつながっていくと思います。
漱石がこころで描いた人間のこころとこころのむき出しの関係性は、今を生きる私たちの心の問題を乗り切るヒントを与えてくれる。そんな感想が読後の私の心の中に強く刻みこまれました。(1,591文字)